なぜ、刑事ドラマはおもしろいのか。

NAZEDEKA。刑事ドラマを専門に「映画・テレビドラマ」の研究をしています。

太陽の季節

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基本データ

タイトル:太陽の季節
公開日:1956年5月17日
上映時間:89分
監督:古川卓巳
脚本:古川卓巳
原作:石原慎太郎太陽の季節
出演者:長門裕之南田洋子三島耕佐野浅夫岡田眞澄清水将夫坪内美詠子石原裕次郎石原慎太郎

概要

裕福な若者たちが日々遊びに明け暮れる中でアイデンティティーへの希求を模索する物語です。華やかな若者たちの青春の日陰を描く作品となっています。また、本作がデビューとなる石原裕次郎さんにも注目です。

解説

・ヒューマン

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本作のヒューマンは「青春」がメインです。
太陽の下、青春に溺れる竜哉と英子の姿が描写されています。

豆知識(ネタバレ注意)

・竜哉と英子は結婚した!?

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本作で竜哉を演じた長門裕之さんと英子を演じた南田洋子さんは、本作公開の5年後となる1961年にご結婚されています。

・デビュー作!

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本作は石原裕次郎さんの初出演作です。裕次郎さんは当初スタッフとして参加されていましたが、俳優の不足、及びプロデューサーの水の江滝子さんの推薦により、出演となりました。この際、カメラマンの伊佐山三郎さんはファインダー越しに裕次郎さんを見て「阪妻阪東妻三郎)がいる」と言ったといわれています。

・サッカー部員は原作者!?

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劇中、長門裕之さん演じる竜哉が病院から出た際、サッカー部員と出くわします。このサッカー部員を演じたのは、本作の原作者である石原慎太郎さんです。また、この際の慎太郎さんの髪型である「慎太郎刈り」が流行しました。

収録ソフト

・単品

 

絶対考察(ネタバレ注意)

 太陽の季節とは太陽が最も輝きに満ちるとき。人生に置きかえれば青春である。竜哉と英子の青春は、きらびやかなダンスホール、熱狂うずまくボクシング会場、太陽の下の海にある。しかし、その青春は二人であたった焚き火のように儚く、けんかで割れた酒瓶のようにもろい。「陽」ではなく「陰」の青春であり恋愛なのだ。
 「陰」を感じるとき、それは二人の会話にある。哲学的な恋愛論。それは会話以前の「陽」の遊びをすべて虚構にいたらしめる侘しさがある。竜哉は涙を流さないと言い、英子は人を愛せないと言う。
 涙を流さない竜哉は、皮肉にか水に縁がある。海、酒、シャワー、英子の涙。しかし、いかなる水をもってしても心は乾いたままである。対する英子は涙をもって人を愛そうとする。ぬるい海の中で熱い口づけを交わし、心も温まったのか、愛せるようになったと言う英子。「陰」から「陽」への転換。
 だが、竜哉にはその気はない。英子を「陰」に縛りつける、金による心の売り買いがはじまる。これほど空虚な恋愛はない。その象徴は、竜哉が降りた後の子供専用ブランコである。勢いよく揺れてはいるが、人(心)がなく、むなしく軋む音をたてるのみ。まさに子どもの恋愛である。
 子どもはよく笑うが、二人も例外ではない。英子は酒場で高笑いをし、けんかのさなか二人で大笑いもした。そんな二人が料理屋で話しあいをしている際、別室から、けたたましい笑い声が響く。二人を嘲笑する天の声ならぬ太陽の声であるか。
 されど二人に子どもができる。英子が竜哉に妊娠をつげる。「陰」から「陽」への最後の願いをこめて。だが、目にするものは、さびれた子どもの像、しまわれる思い出のヨット、降りしきる雨、倒れたボート。二人の行く末を暗示するものばかりである。太陽は見えない。それでも英子は焚き火のほのかな陽に期待をよせる。が、その陽は自らの命の灯火であった。
 きつく締められたテーピングとは裏腹に、竜哉の態度は煮えきらない。グラスとともに英子の心は割れ、最後の涙がこぼれ落ちる。こぼれた涙で陽が消える。
 遺影の英子の目は竜哉に本を投げつけたときと同じ疑念の目をしている。その眼差しから聞こえてくるのは英子の声でなくオルゴールの音であった。英子との会話は永遠に保留のままである。「寒くないか?」と英子を焚き火にあてた竜哉の思いは本物だった。竜哉の心は焚き火より暖かかった。その叫びを遺族の冷たい視線にぶつける。
 「陰」の世界にいざなわれた英子を後にし、坂を下る竜哉。太陽から遠ざかる。太陽の季節の終わり。
 OBレースに臨む竜哉の父は青春を感じさせた。しかし、その青春はたった一発のパンチで崩れさった。二人の青春も同じであった。
 季節はめぐるものである。歩を進める竜哉は英子のもとへ向かっているのかもしれない。